本記事では、「尽力いたします」は正しい敬語か?について解説します。
「尽力いたします」は正しい敬語?
ビジネスシーンでは昔から「尽力」という言葉を耳にすることがあります。
かしこまった場面や上司、お客様の前など、自分が頑張りますという場面や相手に頑張ってもらったときに「尽力」という言葉が出てきます。
ということは「尽力」=「頑張る」の類語となるのでしょうか。
歴史ある言葉に見えますが正しい使い方を知らない方は多いかと思われます。
「尽力いたします」という言葉を適切なタイミングで使うことができればビジネスシーンだけでなくあらゆる場面で応用が利くことができるでしょう。
まずは言葉を分解して文字としての「尽力」の意味を見ていきましょう。
「尽」
読み方は「ことごとく(尽く)」となります
意味は問題にしているもの全て、すべて、みな、残らず、です。
文法上、「ことごとく」は副詞なので動詞や形容詞、副詞、文全体を詳しく説明する「修飾語」になります。
使い方としては「使い方がことごとく間違っている」「見るものが尽くきれい」などが挙げられます。
副詞は形容詞のように名詞を修飾できませんので注意が必要です。
例えば「きれいな花」のように「きれいな」という形容詞が「花」という名詞を詳しく説明しています。
これを修飾といい、形容詞は名詞を修飾します。
一方、副詞は先ほども述べた通り動詞や形容詞などを修飾するので「とてもきれいな花」のように「花」を修飾している「きれいな」という形容詞をさらに詳しく説明する「とても」という副詞で成り立っています。
副詞は名刺を修飾できないので「とても」という言葉は「花」を詳しく説明していません。
「とても花」とは言いません。
このように副詞は形容詞などを修飾しますが、名詞は修飾できません。
言葉を正確に学ぶためには文法も覚えておくにこしたことはありません。
実際、先ほどの副詞の説明は小学生から中学生で学ぶものなのでそれほど難易度は高くありません。
「何かおかしいな」と思ったら文法が間違っている可能性があります。
まとめると「ことごとく」は副詞なので名詞と直接くっつくことはありません。
「力」
こちらはそのままの意で「ちから」です。
Powerとしての「力」という意もありますが、ここでは「能力」や「やる気」を指します。
この二つが組み合わさることで「尽力」が「尽く(副詞)出し切る(動詞)力(名詞)」というようになり、内容としては「力をすべて出し切る」となります。
似た言葉で「努力」があります。
言葉の意としては「ある目標に向かってつとめること」となるので「尽力」とほぼ同じの内容になります。
「尽力」は広義の範囲では「頑張る」に属しているので「努力」や「注力」「諦めない」「投げ出さない」などと同じ部類に入ります。
ただ、「尽」はすべて出し切るという意があるので「頑張る」の最上位クラスの使い方ができます。
出し切るが本来の使い方となっているので「無理をしないで尽力いたします」という言葉は「無理をしないですべてを出し切る」というように意味が通りません。
「尽力いたします」の前には否定的な内容の言葉が来ないように注意しましょう。
それでは「尽力いたします」の使い方です。
「尽力いたします」の使い方
これも分解していくと「尽力」と「いたします」に分けられます。
「尽力」は先ほどご説明したとおりとなります。
「いたします」は「します」の謙遜語となるので、目上の人に対して「自分が」使う言葉になります。
反対に相手が尽力してくれた時に使う場合には「ご尽力」という使い方をします。
ただし「ご尽力」は尊敬を示す言葉となるので「ご尽力いたします」のような尊敬を表す言葉と自分が一つ下に下がった表現を組み合わせる使い方は間違いとなります。
正しくは「ご尽力いただき」です。
また、使う場面についてですが、「尽力」は相手のために力を出し切るという意があります。
つまり、自分のために「尽力」するという使い方はできません。
「自分のスキルアップのために尽力いたしますので宜しくお願い致します」という使い方はどうでしょう。
先ほども述べましたが「尽力」とは相手のために使う言葉です。
自分のスキルアップのためにと「自分のために」と言ってしまっているのでこの使い方は間違いです。
正しくは「お客様に喜んでいただけるよう、尽力いたします」が正解となります。
「尽力いたします」をさらに丁寧にした言い方として「尽力して参ります」があります。
「参ります」は「行く」の謙遜語である「参る」に丁寧語の「ます」を付け加えたものです。
相手に対してさらに力を出し切ることを丁寧に言った敬語となります。
例文
実際にビジネスシーンで使われている「尽力いたします」という言葉ですが、場面ごとで使える場合と使えない場合があります。
基本として覚えていただきたいのは「尽力いたします」は目上の人やお客様など自分より上の立場の人に対して、自分が力を出し切るという内容で使う言葉です。
また、相手が力を出し切ってくれた場合には「尽力いたします」ではなく「ご尽力」という使い方をします。
この二点を念頭に置いて次のような相手の場合にどのように使っていくか考えていきましょう。
例文(上司あて)
「尽力いたします」は目上の人に対して使う敬語なので上司やお客様または就職のための履歴書に使います。
例文「貴社の発展のために尽力して参ります。」
こちらは履歴書の志望動機に書くことが多いです。
「尽力いたします」でも良いのですが、より丁寧に「尽力して参ります」と書きました。
ここで注意していただきたいのは「貴社」です。
よく間違いやすい言葉遣いとして「貴社」と「御社」があります。
「貴社」は書き言葉で「御社」は口語となりますので取り扱いには十分注意しましょう。
内容としては「あなたの会社のために自分の力を出し切ります」といった形です。
「尽力いたします」は相手のために力を出し切るという言葉であるので、この使い方が正しいです。
決して「自分のために力を出し切る」という使い方はしないようにしましょう。
例文「今後はより一層、自社の発展のために尽力して参ります。」
こちらは昇進や人事異動などのあいさつ文としてよく使われます。
これも同じように「相手のために」という内容が込められております。
「尽力いたします」は抱負を語るときによく使われるのでイメージとしてはプラスです。
意気込みや抱負といった、これから自分が前向きに力を発揮することを表す際に使われるので、新任のあいさつや明るい未来を語る場面においてよく使われます。
これからの未来に対して使われる「尽力いたします」ですが、「尽力いたします」は過去の表現として使いません。
先ほども述べましたが「尽力いたします」は未来のことに対して全力を尽くすという内容で使われますので「尽力しました」という過去の表現は誤用となります。
それでは、今まで全力で頑張った場面にはどのような表現が適切なのでしょうか。次の表現を使うようにしましょう。
例文「ご協力(お手伝い)させていただきました」
あなたのために一生懸命頑張りましたと直接言うのは押し付ける内容に捉えられてしまうので、あくまでも協力やお手伝いといった「サポートに回らせていただいた」という表現が適切です。
「尽力いたします」をさらに丁寧に言った用法として「尽力して参ります」がありましたが、二重表現には十分注意が必要です。
二重表現とは一つの表現の中に同じ内容の言葉が複数使われている表現のことを指し、内容が二重になってしまっていることをいいます。
この表現は日本語では誤用とされており、間違った使い方なので避けなければなりません。
例えば「尽力を尽くして参ります」があります。
「尽力」には相手のためにすべての力を注ぐという内容が含まれているので「尽くす」という内容がすでに含まれています。
ということは「尽力を尽くす」という表現は二重表現なので間違いです。
「尽くす」と似た表現としては「注ぐ」があります。
こちらも「尽力」と組み合わせてしまうと「尽力を注ぐ」となり二重表現になってしまいますので十分注意しましょう。
「尽力」の英語表現
「尽力」の英語表現の場合は次のようになります。
「頑張ります」に似た表現
・I will do my best.
相手の努力に対してお礼を使える表現
・I appreciate your efforts.
appreciateは「~を高く評価する」という意です。日本語の感覚で言うと上から目線に感じますが、英語表現ではこちらが適切です。
例文(部下あて)
部下に対して「尽力いたします」という言葉は使えるのでしょうか。
結論からすると、使うことはできません。
「尽力いたします」は謙遜語として目上の人に対して、自分を下において使う言葉です。
上司が部下に対して自分を下にして言うことはありません。
新任の場所でのスピーチで相手が部下の場合、ビジネスシーンでは「私自身、チームの発展のために尽力して参りますのでご協力をお願い致します」という言葉は適切とされていますが、日常の会話の中で上司が部下に対して「尽力いたします」は使いません。
それでは、どのような類語が使えるのでしょうか。次のような言葉を使いましょう。
・力を尽くす
・全力で頑張る
これらは「尽力いたします」に近い内容でかつ、部下に対しての謙遜語とならない言葉です。
・私も力を尽くすから一緒に頑張ってほしい。
・一緒に全力で頑張ろう。
このような使い方ができます。
部下だけが尽力するのはチームプレーに欠けます。
みんなと一丸となって力を尽くすことによって統率が取れてすべてのことが円滑に進むものです。
さらに、正しい言葉を使うことが上司にとっての務めとなるので間違った場面で使わないように心がけましょう。
例文(同僚あて)
同僚に対しても部下と同様「尽力いたします」は使いません。
先ほどのように新任のスピーチなどで使う場合もありますが、立場が同じ場合には基本的に使いません。
ただ、相手に一緒に頑張ってほしい時などには使うこともあります。
・僕も尽力するから一緒に頑張ろう。
このような使い方です。
「尽力いたします」という言葉ではなく「尽力」という言葉で同僚に対して一緒に頑張ろうと伝えます。
敬語も相手によって使い方を誤ると「嫌味」に聞こえてしまいます。
そうなると印象がよくありません。
特に同僚に対しては必要な場面、不必要な場面と区別して使うようにしましょう。
まとめ
「尽力いたします」は相手に対して自分の力を出し切るという意で使います。
また目上の人やお客様に対して使うことがほとんどです。
しかし、ビジネスシーンではスピーチやメールでのあいさつにも使われるので部下に対しても使う場合があります。
ただ、日常会話では部下に対しては使わず類語で表現します。
類語の表現もたくさんあるので覚えるのは大変かもしれませんが次の点に注意すれば問題はありません。
「尽力いたします」は目上の人に使う。
言葉の内容として、自分が一つ下の位置に下がって相手を敬う場面で使用するので上司やお客様といった目上の人に対して使うことができる言葉です。
間違っても部下に対して「尽力します」と言わないようにしましょう。
部下あてのスピーチやメールでのあいさつには「尽力いたします」使ってもよい
先ほどは部下に対して使わないと述べましたが、ビジネスシーンでは相手が部下の場合でも「尽力いたします」と使える場面があります。
畏まった席やスピーチの場などです。
ここでは「尽力いたします」を使うことで部下に対して目線を合わせることができます。
上司は部下にとって上の立場の人ですが、いつまでも上司が上から目線では部下はついていきたくありません。
時と場合によって目線を変えることで親しみやすい印象を与えることができ、チームプレーも質の良いものになっていきます。
「尽力に尽くします」などの二重表現には十分注意する
せっかく相手に対して敬意を表す言葉も二重表現となってしまったら内容が反転してしまい無駄になってしまします。
正しい文法を学んで二重表現を回避しましょう。
この点が「尽力いたします」を使うことで一番気を付けなければならない点です。
「尽力いたします」は多岐にわたって使うことができる便利な言葉です。
ですが、間違った使い方をしてしまうと相手に対して「嫌味」に聞こえたりマイナスのイメージを与えてしまったりしてしまいます。
せっかくプラスのイメージで発した言葉が逆の意で捉えられてしまうと損です。
正しい使い方を覚えて、シーンに合わせて使うようにしましょう。
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