本記事では、「ご多幸」は正しい敬語か?について解説します。
「ご多幸」は正しい敬語?
年末年始から春にかけては職場で挨拶する機会が増える時期ですよね。
忘年会に新年会、さらに部署異動などいろいろな場面でスピーチをしたり、または挨拶文を書いたりすることがあると思います。
やはり社会人としてビジネスパーソンとして、その場にふさわしい正しい敬語を使った挨拶をしたいものです。
ビジネスメールの最後に、「ご多幸をお祈りいたします」と書かれているのをよく目にすると思います。
丁寧で品の良さを感じさせるこの表現を文章の最後に付け加えることで、読み手に良い印象を与えてくれます。
しかし、なんとなくの意味は分かっていても、明確な意味が分からずなかなか使いづらいという人もいると思います。
ご多幸とは
「多幸」とは、字のごとくたくさんの幸せのこと。
幸の多いこと。多福を意味します。
これに「ご」をつけて丁寧にした正しい敬語です。
相手の幸せを祈って「ご多幸をお祈りいたします」や、もっと丁寧に「ご多幸をお祈り申し上げます」という風に使います。
ちなみに英文レターでも文章の締めに使うことが多く、英語では「I wish for your great happiness.」やシンプルに「May you be happy.」と表現します。
海外とのやりとりをする機会のある人は、この言葉を締めに使えば、マナーがよく、気も利く人だという印象を与えられますよ。
ご多幸はどのような場面で使われるか
「ご多幸をお祈りいたします」は、ビジネスメールや手紙、また、結婚式などのあらたまった場面でのスピーチで使われることが多い言葉です。
メールや手紙などの文章でも、スピーチや挨拶での口頭でも、「ご多幸をお祈りいたします」は締めの言葉として最後に使うのが一般的です。
とはいえ、頻繁にやりとりをしている相手に対しては使うものではありません。
ビジネスの場面では、仕事でなんらかの区切りがついてしばらく会うことがなくなる相手に向けた挨拶としてよく使います。
これまでずっと一緒に働いてきた相手が、転職や異動などで従来のように会う機会がなくなるであろうときに、この言葉を用いて相手の幸せを祈りながらひとまず見送るのです。
もちろん何を「幸せ」と感じるかは人によって異なります。
体が健康であることや、経済的に成功すること、会社での出世や、子孫繁栄、結婚や資格の取得という人もいるでしょう。
「ご多幸」が指す幸せにこれといった定義はなく、上記はもちろん、それ以外にもたくさんの定義があるのです。
だからこそ、「ご多幸」は、どんな価値観の相手に対しても使えて、印象も良くなるというとても便利なフレーズなのです。
また「ご多幸」はビジネスシーンだけでなく、プライベートシーンでも同様に使えます。
例えば職場の人の結婚式に出席し、スピーチや乾杯の挨拶などを頼まれたときです。
このようなシーンは、会社行事ではないですが、会社関係者が多く出席しているはずですので、どんな挨拶をするかによって社会人としてのマナースキルが問われるといっても過言ではありません。
学生のようなフランクな挨拶は、二次会ではいいかもしれませんが、結婚式というフォーマルで、かつ上司や仕事先の面々からも注目されている場では、恥ずかしくないスピーチをしてアピールにつなげたいですよね。
同じようなシチュエーションでいうと送迎会などでも使うことができます。
上司や同僚、部下を新天地に送り出すときのスピーチの結びに、このフレーズを使ってみることをお勧めします。
「ご多幸」の意味と使い方を知って、ぜひ使ってみてください。
例文
手紙やメールの挨拶文では、具体的に「ご多幸」をどのように使えばいいのでしょうか。自身が退職する時に送る挨拶文を例に挙げてみましょう。
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社員の皆様
お疲れ様でございます。
営業部の〇〇です。
このたび、一身上の都合により10月末日をもって退社することとなり、本日最終出社日を迎えました。
本来ならば直接ご挨拶へ伺うところ、メールでのご挨拶にて失礼いたします。
在職中はお世話になりまして、本当にありがとうございました。
入社してからの本日に至るまであっという間で、業務の中で皆さんから、多く学ばせていただきました。
特に同じプロジェクトチームの方々には、私が困っているときにいつも助けていただき感謝しかありません。
この会社での経験や皆さんから学んだことは今後の人生にも活かしていきたいと思います。
末筆にはなりますが、社員の皆様のご多幸と、□□株式会社のますますのご発展をお祈り申し上げます。
―――
このように「ご多幸」を結びとして使うことで、相手に対する気遣いと感謝を表すことができます。
そして気を付けたいのは、「ご多幸をお祈りします」は、企業などの法人相手には使わず、人相手のみとすることです。
法人相手には上記のように「ご発展」「ご清栄」などを用います。
続いて、部下の結婚式においてのスピーチを例に挙げます。
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A君、Bさん、ご結婚おめでとうございます。お二人のご家族やご親族の皆さまにも、心よりお喜び申し上げます。
ただ今ご紹介にあずかりました、A君と同じ勤務先の上司のCと申します。
僭越ではございますが、ひと言ご挨拶させていただきます。
A君と初めて会ったのは、5年前のことでございます。
当時から思いやりがあって細かいことにもよく気配りができる人気者で、営業成績も優秀で営業部の中心的存在でした。仕事が順調なだけでなく、プライベートでもこんなに素敵な女性と結婚できるなんて本当に幸せ者ですね。
これからお二人で素敵な家庭を築いてください。この度は本当におめでとう。
最後になりましたが、新郎新婦と両家の皆様、そして本日の席にご列席の皆様のご多幸をお祈り申し上げ、挨拶とさせていただきます。
―――
口頭での挨拶やスピーチでも「ご多幸」は定番の言い回しです。
やはり文章と同じく、挨拶の締めに使用します。
例文(上司あて)
相手の幸せを願って伝える「ご多幸」ですが、上司やクライアントなど目上の人に使うのは失礼にあたるのではという声もあります。
上から目線の表現と解釈されているようです。
確かに「ご多幸をお祈りいたします」は自分がへりくだる謙譲語(謙遜語ともいう)ではありませんが、素直に相手の幸せを願う気持ちを表す丁寧語であり、それを言葉にするのに上からも下からもありませんので、気兼ねなく使って構いません。
では、どのように上司にその気持ちを伝えるのでしょうか。
一個人宛のメッセージであれば、思い出深いエピソードを交えて話すことで、気持ちがより伝わります。
例えばピンチの時に助け舟を出してもらったことや、ミスをして落ち込んでいるときに励ましてもらったことなど…または上司相手なので、叱ってくれたことが有難かったというようなエピソードを盛り込んでも良いでしょう。
ここでは、退職を迎えた上司への例文を紹介します。
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ご定年退職誠におめでとうございます。
〇〇部長には10年間大変お世話になりました。
右も左も分からなかった私がなんとか10年間やってこられたのは、ひとえに○○部長のおかげです。
いつも熱いご指導をしてくださり、時に何も言わず見守り、時に思い切り叱ってくださったことは、いつまでも忘れません。ありがとうございました。
定年後はご家族と素敵な第二の人生を楽しんでください。お身体はくれぐれもご自愛くださいませ。
〇〇部長のご多幸をお祈り申し上げます。
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また、先輩など、親しい目上の人へのメッセージ例も紹介します。
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〇〇主任
突然の退職の知らせに大変驚いています。
〇〇主任とは入社してすぐに同じチームになり、一から色々と教えていただきましたね。
本当にありがとうございました。
お客様に対してだけでなく、私たち後輩にもいつも笑顔で接してくれたこと、とても感謝しています。
どれだけ疲れていても決して顔に出さずに元気に仕事をしている主任にこちらまで元気をもらうことができて、何とかやってくれることができました。
退職されるとのことで、寂しい気持ちはありますが、新天地でのご活躍とご多幸をお祈りしています。
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上司や先輩の退職に際しては、冒頭で礼儀正しい言葉で相手の労をねぎらい、次に具体的なエピソードを絡めてこれまでの感謝の気持ちを述べ、最後にしばらく会わないであろう相手の幸せを祈って締めくくりましょう。
例文(部下あて)
一方、部下や後輩に対しては「ご多幸をお祈りいたします」という表現を無理に使う必要はないでしょう。
以下例文です。
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〇〇さん
3年間、本当にお疲れ様でした。
〇〇さんは入社してすぐにうちのチームに入りましたね。最初はこちらが心配してしまうほど、マイペースでおとなしかったですが、時とともにどんどんたくましくなっていきましたね。先輩としてとても誇らしかったです。
〇〇さんは、笑顔が素敵でお客様対応も上手で、私としても見習うことが多かったです。
新しい職場でも持ち前の笑顔を忘れずにマイペースで頑張ってくださいね。お世話になりました。
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部下に送る場合は、カジュアルに相手の失敗談や笑ってしまったエピソードを絡めて感謝とねぎらいを伝えるといいです。
くすっと笑ってしまうようなことを入れてもいいですね。
ただ、面白おかしく話すだけではなくて、後輩や部下からも学ぶことがあったということを伝えれば、相手もきっと嬉しい気持ちになるでしょう。
例文(同僚あて)
同僚や同期には、ともに苦労した経験や、一緒になって乗り越えた壁など、同期だからこそ話せるような内容を書きましょう。
今となっては笑い話になるような出来事をあえて書いて、寂しい気分にならないような文面にしましょう。
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〇〇さん
お疲れ様です。△△です。
〇〇さんとは、初めての出社の日に同じチームになりましたね。〇〇さんは忘れているかもしれませんが、誰よりも最初に私に話しかけてくれたのが〇〇さんだったこと、私は今でも覚えています。
当日たまたまお揃いのカバンを持っていたことがきっかけでしたね!
〇〇さんのいつも仕事を笑顔でこなす姿勢を見習って、今後は私がこのチームを今よりももっと大きく成長させていきたいと思っています。
今日まで同じチームで一緒に仕事ができ楽しかったです。今後のご活躍とご多幸を応援しております。
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同僚に対しても「ご多幸」を使用するのは不自然ではありません。特に退職の挨拶ということであればなおさらです。
もう一つ「ご多幸」を使わないバージョンも紹介します。
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〇〇さん
お疲れ様です。△△です。
〇〇さんとはいろいろな楽しい思い出、そして苦い思い出もありますね。
特に新商品のプレゼンテーションの時、資料を完璧に準備したのにも関わらず、当日に数字のミスが見つかり、二人して大慌てでコピーしなおしてなんとか間に合ったこと…、あのスリルは一生忘れません!
これからの季節とても寒くなりますので、くれぐれもお体にはお気をつけて過ごしてくださいね。
―――
同期や同僚だと、非常に親しい仲だったという方は多いのではないでしょうか。
仕事だけでなくプライベートでも付き合いがあったのであれば、これからも変わらず付き合いは続けましょう、という意味も込めて、あまりかしこまった文章を書かないほうがいいかもしれません。
あまりかしこまってしまうと、相手が距離感を感じてしまうかもしれませんし、退職後の関係性にも影響が出るかもしれないので、仲が良いほど文章はフランクなほうがいいでしょう。
無理して「ご多幸」を使う必要はありません。
まとめ
ビジネスシーンでもプライベートでも、相手側から「幸せを願われる」というのは誰でも嬉しいことです。
挨拶文やスピーチの最後に付け加えるだけで相手に良い印象を与えることができるだけでなく、人前で行うスピーチであれば、周りの人たちに対しても、自分のビジネスパーソンとしてのマナーの良さを印象付けることもできるでしょう。
こういったフレーズをごく自然に使いこなすのは意外と難しいことですが、一人前のビジネスパーソンであれば身につけておく必要があります。
今後しばらく会うことのない相手との縁を途切れさせずに今後のビジネスにつなげていくためにも、挨拶の最後は丁寧で上品な言葉で締めくくって良い印象を残しておきたいところです。
日本の敬語の歴史は古く、3種類もあるため、大人でも時に誤った使い方することもありますが、今回は「ご多幸をお祈りします」というフレーズをしっかり覚えて正しい使い方をしてください。
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