本記事では、「ご苦労さまです」は正しい敬語か?について解説します。
「ご苦労さまです」は正しい敬語?
ビジネスシーンでよく耳にする言葉の中には、間違った使い方をしやすいものがたくさんあります。
「ご苦労さまです」も、そんな間違えやすいフレーズの一つではないでしょうか。
「ご苦労さまです」は、相手に苦労をかける時や何かをお願いする時などに使うことが多いフレーズです。
例えば、荷物や出前を運んできてくれた人などに対しては、「ご苦労さまです」と言うと、労をねぎらうという点でとても喜ばれます。
また、社内に出入りしているメンテナンス業者や清掃業者に対して、「こんにちは」という挨拶の代わりに「ご苦労さまです」と言うのは、相手に対して失礼には当たりません。
「ご苦労さまです」の「ご苦労」は、苦労という言葉に「ご」という接頭辞をつけて、丁寧なニュアンスを持たせています。
そのため、このフレーズは一見すると謙遜語なのかとイメージする人は多いかもしれません。
しかし、「苦労」という言葉は、それ自体に目上の人から目下の人に対して使う言葉というニュアンスがあります。
そのため、「ご」をつけて丁寧な雰囲気にしていても尊敬語になりませんし、謙譲語にもなりません。
敬語ではなく、丁寧語に分類される言葉ではないでしょうか。
そのため、ビジネスシーンにおいては、自分よりも目上となる上司に対して使うのはNGですし、取引先や顧客などに対しても使うのは控えたほうが良いでしょう。
「ご苦労さまです」というフレーズは、歴史の中では古くから使われてきました。
長い歴史の中では、時代によって人々の話し方が違うため、古代から「ご苦労さまです」という言い方がされてきたわけではありません。
しかし、目上の主君から家臣に対して「ご苦労であった」と労をねぎらうことはあったでしょう。
時代劇のテレビドラマや映画を見ていても、主君から家臣に対して「ご苦労であった」「ご苦労」などがよく登場します。
しかし、目下の家臣から主君に対してこのフレーズを言うシーンはありません。
その理由は、自分よりも目上の人に対して使ってはいけない言葉だからです。
それでは、目上の人に対しては、どんな風に「ご苦労さまです」を伝えたら良いのでしょうか?
上司が大変な苦労をしている姿を目の当たりにすると、部下としても、なんとか労をねぎらう言葉をかけたいと思うものです。
しかし、大変な苦労をした上司に対して「ご苦労さまです」と声がけをすることは、相手にとってとても失礼に当たります。
上司によっては激怒することもあるので注意してください。
上司に対しては「ご苦労さまです」ではなく、「お疲れさまでした」「お疲れさまです」というフレーズを使うのが良いでしょう。
どちらも相手の労をねぎらう言葉です。
「ご苦労さまです」は自分よりも目上の人に対しては使うことができないため、同僚や部下に対して使うようにしましょう。
一方、「お疲れさまでした」「お疲れさまです」は、目上の人に対して使っても基本的には失礼になりません。
それでは、顧客や取引先など、社外の人に対してはどんなフレーズを使えばよいのでしょうか?
目上の人には使えない「ご苦労さまです」は、顧客や取引先に対しても使うことはできません。
とても失礼になってしまうのでNGです。
目上の人に使ってもOKな「お疲れさまでした」「お疲れさまです」もまた、社外の人に対しては使うことはできません。
この言葉は、社内の人に対して使うフレーズだからです。
顧客や取引先などの社外の人に対しては、「お世話になります」「いつもお世話になっております」といった、「お世話をしてくださってありがとうございます」的なニュアンスを持つフレーズを使うのが正解です。
日本のビジネスシーンにおいては、例えば社内に出入りしているメンテナンスや宅配、デリバリーの業者に対して、挨拶代わりに「ご苦労さまです」というフレーズを使うことがあります。
英語でも「ご苦労さまです」のニュアンスを持つフレーズはありますが、挨拶代わりに使うわけではなく、本当に疲れていたり苦労したりする相手の労をねぎらう際に使います。
その点で、日本語と英語では使うタイミングやシーンが若干異なります。
英語で「ご苦労さまです」を表現できるフレーズには、「Thank you for our hard work!(大変な仕事をしてくれてありがとうございます)」「Good job!(よくやってくれました!)」「Well done!(素晴らしかったですね!)」などがあります。
その中でも、「Thank you for ~(~をありがとうございます)」というフレーズは使い勝手がよく、さまざまなシーンで活用することができるので、覚えておくと良いでしょう。
「Thank you for ~」では、具体的に相手が何をしたことに対して自分が感謝の気持ちを伝えているのかという点を明確にすることが大切です。
例えば、上司が大きなプロジェクトを取ってきた時には、日本語だと「お疲れさまです」「ありがとうございます」などのフレーズで上司の労をねぎらいます。英語だと、「Thank you for this project!」など、「Thank you for ~」で表現するのが適切です。
「ご苦労さまです」のように、目上の人に使うと失礼になるけれど部下や同僚に対して使うのはOKといったフレーズやワードは、英語では存在しません。
英語においては、尊敬語とか謙譲語などの概念がないからです。
しかし、どんなワードを使うかによってフォーマル感を強くすることができたり、カジュアルでフランクな雰囲気を出すことは可能です。
海外のビジネスシーンにおいて「ご苦労さまです」を使うのなら、自分と相手との立場・関係を見ながら、どんなワードを使うのが良いかを判断すると良いでしょう。
例文
「ご苦労さまです」は、丁寧な感じを強くして「ご苦労さまでございます」にすることもできますし、カジュアルで親近感のある「ご苦労さま!」として使うこともできます。
しかし、どんなに丁寧な文末表現にしても、「ご苦労」という言葉は自分よりも目上の人に使ってはいけません。
「ご苦労さまです」のフレーズは、社内の人間に対しては、自分よりも目上か目下、または同僚かなど、立場・関係によって使えるかどうかが決まります。
しかし、社外の人に対して、どんな時に使うことができてどんな時には使えないのかというのは、簡単そうで意外と難しいかもしれません。
社外の人に対して使えるのは、メンテナンスや清掃、宅配やサービスなどで職場に出入りしている業者に対してです。
この場合には、挨拶代わりに「ご苦労さまです」を使っても失礼だと取られてしまうことは少ないでしょう。
しかし、目上の者から目下の者に対して使う「ご苦労」という言葉を業者の人に対して使うのもなんとなく偉そうかな、と不安な場合には、「いつもありがとうございます」や「お世話になります」に置き換えても不自然ではありません。
むしろ、言われた側にとってはとても丁寧なフレーズだと感じてもらえるでしょう。
一方、社外の人でも会社の取引先や顧客に対しては、「ご苦労さまです」を使うのはNGです。
取引先や顧客は、会社にとっては利益をもたらしてくれる存在です。
つまり、会社にとっては目上に当たるわけです。
そのため、「ご苦労さまです」ではなく、「いつもお世話になっております」を使うのが正解です。
例文(上司あて)
「ご苦労さまです」のフレーズは、上司に対して使うのはNGです。
上司が大変な苦労をした場合でも、「ご苦労」という言葉を自分よりも目上の立場となる上司に対して使うのは失礼極まりないので、くれぐれも使わないように注意してください。
上司に対しては、「ご苦労さまです」の代わりに「お疲れさまです」「お疲れさまでした」の同義語を使いましょう。
労をねぎらうという点では、どちらも「ご苦労さまです」と同じ意味がありますし、「お疲れさまです」は上司に対して使っても失礼には当たりません。
秘書検定などでも、目上の人に対して「お疲れさまです」を使うのはOKとされています。
ただし、近年では目上の人に対して「お疲れさまです」を使うのは失礼だとする社風を持つ企業が増えています。
そのため、上司に対して「お疲れさまです」を使えるかどうかは、職場の社風によって判断するのが良いでしょう。
上司に対して使うことができる「ご苦労さまです」の同義語は、「お疲れさまです」以外にも「ありがとうございます」があります。
「ありがとうございます」は、相手に対して感謝の気持ちを述べるフレーズですが、日本語だと具体的に何に対してありがとうなのかを明確にしなくても、そのシチュエーションや相手の頑張り全てに対して感謝の気持ちを述べていることが、相手にしっかり伝わります。
そのため、上司に対して「ご苦労さまです」と言いたい時に「ありがとうございます」を使うと、「会社や社員のために頑張ってくださってありがとうございます」という意味になり、感謝の気持ちが上司に伝わることでしょう。
上司に対して労をねぎらう言葉を英語で表現するなら、「Thank you for your ~」のフレーズを使うのがおすすめです。
「Good job!」や「Well done!」といった使いやすいフレーズはあるものの、ビジネスシーンで目上の人に対して使うとなれなれしすぎて、失礼に当たる可能性が高くなります。注意したほうが良いでしょう。
例文(部下あて)
「ご苦労さまです」は、目上の者から目下の者へ使うことができるフレーズです。
そのため、社内においては自分よりも下の立場となる部下に対して使っても、相手に対して失礼に当たることはありません。
しかし、「ご苦労」という言葉は、上から下に対して使う言葉というだけでなく、言葉の響きそのものになんとなく偉そうな雰囲気を感じるという人は少なくありません。
そのため、使い方の面では決して間違ってはいなくても、タイミングやシーンによっては、部下に対して「ご苦労さまです」を使っても不快に感じられてしまうことはあるかもしれません。
もしも部下に対して「ご苦労さまです」以外の同義語を使って労をねぎらうのなら、「お疲れさま」「どうもありがとう」などのフレーズを使うのが良いでしょう。
「お疲れさまでした」は目上から目下まで幅広く使える言葉で、部下に対して使っても間違いではありません。
「お疲れさまでした」でも良いですし、「お疲れさまです」「お疲れさま」「お疲れ!」など文末をアレンジすることによって、カジュアルで親近感のある言い方となります。
相手との関係や職場の雰囲気などに合わせて、アレンジしながら使うのがおすすめです。
英語で部下の労をねぎらいたい時には、「Good job!」「Well done!」等でも失礼には当たりません。
短くすっきりとしたフレーズの中でも、部下の労をねぎらい、功績や実績をたたえるニュアンスをしっかりと伝えることができます。
例文(同僚あて)
自分と上下関係にない同僚に対して「ご苦労さまです」ということは、使い方としては間違っていませんし、使っても相手に対して失礼にはなりません。
しかし、職場においては同志とも呼べる同僚に対して、「です」「ます」で会話をするのは少しよそよそしいかもしれません。
それに、相手があなたとの距離を感じてしまうことも考えられます。
そのため、同僚に対しては「ご苦労さまです」をよりカジュアルにアレンジして、「ご苦労様!」とするのが良いのではないでしょうか。
「ご苦労」という言葉の響きになんとなく偉そうな雰囲気を感じるという人なら、同僚に対しても「お疲れさま!」とか「ありがとう!」「グッジョブ!」と声をかけても、失礼には当たらないでしょう。
むしろ、言われた同僚にとっては、親近感を感じるでしょうし、労をねぎらわれたことに対して嬉しいと思ってくれるのではないでしょうか。
まとめ
「ご苦労さまです」は、目上から目下に対して使うフレーズです。
そのため、上司や取引先、顧客など目上の立場に当たる人に対しては、決して使わないように注意してください。
この場合には、「お疲れさまです」「ありがとうございます」「いつもお世話になっております」などに置き換えるのがおすすめです。
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