本記事では、「おわかりいただけたでしょうか」は正しい敬語か?について解説します。
ビジネスのシーンにおいて、相手の理解を確認するために問いかけをする際に、「おわかりいただけたでしょうか」と聞くシーンがあります。
この理解度を確認するという行為は、取引先だけでなく、会社の上司や同僚、お客様までと幅広く使用する必要がありますが、間違った表現方法も多く、正確に使用できていると自信を持って言える人は多くありません。
正しい日本語表現を理解し、相手の状況や立場によって異なる表現方法をしっかりと活用できるようにしましょう。
「おわかりいただけたでしょうか」は正しい敬語?
結論から申し上げますと、「おわかりいただけたでしょうか」は間違った日本語です。
今回の言葉の場合、相手に対して理解度を確認する「わかったか」の言葉を丁寧に言う必要があります。
この「わかったか」を敬語にしますと、「おわかりですか」という言葉になります。
基本的にビジネス用語の場合、先頭に「お」をつけて使用します。
「わかったか」の尊敬語は、「おわかりですか」や「おわかりになる」「ご理解いただく」という表現になります。
次に「いただけたでしょうか」ですが、よく社会人が使う「丁寧と感じる表現」の一つです。
この「いただけたでしょうか」を紐解くと、「いただく」を丁寧にした言葉になります。
「いただく」は「もらう」の謙遜語です。
そして、「~たでしょうか」につきましては、丁寧語である「ます」と「でしょう」、そして疑問詞である「か」を使用しています。
この時点で二重敬語であることがわかりますので、「~たでしょうか」は間違った日本語であると言えます。
さらに、「おわかり」自体も敬語表現のため、この「おわかりいただけたでしょうか」には複数の敬称が入り混じった言葉であることもわかります。
ビジネスシーンとは関係なく、日常会話でも二重敬語は間違った日本語として指摘されます。
そのため、本来であれば「おわかりいただけだでしょうか」は「おわかりでしょうか」という言葉が正しい日本語になります。
何故このような間違った言葉が広まっているかと言いますと、歴史はそこまで古くなく、近年にできた新しい造語のようなものです。
相手に対して丁寧語で話さないといけないと思い、「丁寧な言葉+丁寧な言葉」と足していけばより丁寧に聞こえる、と考えられて作られた言葉が「おわかりいただけたでしょうか」になります。
さらに解説を続けますと、「おわかりいただけたでしょうか」の敬称を省くと、「わかってもらえただろうか」になります。
この言葉は、明らかに上から目線の言葉に感じられます。
相手の理解度を計るために使用する言葉としては、いささか失礼に当たる可能性が高いです。
目上の人から「おわかりでしょうか」と言われた場合は問題ありませんが、部下の人が目上にあてて使う言葉ではないことがわかります。
できる限り使用しないようにしましょう。
なお、「おわかりですか」の言葉は相手の理解を確認する言葉と説明しましたが、類義語が沢山あります。
尊敬語である「ご理解できましたか」や「ご了承いただけますか」「ご承知ですか」のように相手に理解度を確認する言葉や、「ご質問はありませんか」「ご不明点はありませんか」など理解度を確認しながらも相手に質問する言葉です。
状況によって何が正しく何が間違っているか、シーンによってどう使用するかをしっかりと覚えましょう。
なお、「わかりましたか」の謙遜語はありません。
謙遜語は自分がへりくだる必要がある言葉に変換することですが、相手に対して「へりくだってください」とは言えませんので、言葉自体がない状態となります。
例文
相手に理解できたか確認する場合:「ただ今の説明でおわかりでしょうか」
この表現の場合、どうしても上から目線になってしまうため、できる限り「おわかりでしょうか」を使用するのは避けたいのが本音です。
相手が目上かどうかなど関係なく、理解度を確認したいのであれば、他の言葉を使用した方が丁寧であり、失礼に当たることはありません。
- 「ここまでの説明にご不明点はございますでしょうか」
- 「ここまでの説明でよろしいでしょうか」
- 「ここまでの説明で問題ございませんでしょうか」
この3つの例文には相手の理解度を確認するという意味では同じ表現となります。
相手に対して「理解しているか」、自分の説明に問題ないかを確認するために「ご不明点はないか」と確認しています。
どちらも「わかっているか」の表現を変えているだけですが、自分からの説明が長くなり、相手に対して「ここまでの説明に問題ないか、疑問点はないか」を確認するためにも、寄り添うような形で「ご理解できてますか」や「ご不明点はありませんか」とうかがいます。
「わかっていますか」よりも相手の立場を尊重している表現となるため、取引先やビジネスの現場ではこちらの例文を参考に覚えておきましょう。
- 「ここまでの説明でご了承いただけますでしょうか」
- 「ここまでの説明でご承知できますでしょうか」
こちらの例文の場合、最終確認の際に使用される言葉です。
ここで「おわかりですか」を使用することもできますが、より丁寧な言葉にすると「ご了承」や「ご承知」が使われます。
どちらも相手の理解度を確認した上で問題ないかを確認する言葉であり、最終的に納得する際に使用する言葉です。
なお、「ご了承」は目上の人への使用はふさわしくない言葉です。
何かを承諾する際に使用しますが、目上の人が部下の方からお願いをされた際に使用します。
目上の人からお願いをされた場合は「了承」ではなく、「承知」か「承りました」を使用するように注意しましょう。
また、何度も「了承」や「承知」を言い続ける事もビジネス的にはNGです。
最終的な理解度を確認する言葉であるため、何度も理解度を確認したい場合は「ここまでの説明でよろしいでしょうか」や「問題ございませんか」などの言葉で確認するようにしましょう。
また、ビジネスにおいて日本人だけではなく、外国の方とも話をする機会は沢山あります。
英語を使う際にも注意が必要な場合があります。
「Do you understand?(わかりましたか)」
相手に対して自分の言いたいことが伝わっているかを確認する際に、おそらく一番最初に習うであろう英文です。
たしかに伝わっているかを確認する「Do you understand?」でも意味は通じますが、この文章を紐解くと、「(私は間違っていない説明をしましたので)今の説明で完全に理解できたのですか?」のように上から目線のニュアンスで伝わることになります。
日本でも海外でもビジネスにおいて相手を敬うことは大切です。
そのため、「Do you understand?」はビジネスのシーンにおいては適切でない表現方法となります。
ビジネスにおいて、相手に「わかっているか」を確認する場合は、「make sense」を使用する場面が多いです。
「Does it make sense?(理解できる?)」
この「make sense?」は、相手を気遣いながらも「(話の)筋は通っていましたか?」「理解できましたか?」等の疑問の言葉として使用されます。
そのため、ビジネスのシーンにおいて、相手の理解を確認するために問いかけをする際に使えます。
とっさに自分がわかっている簡単な英語を口にしてしまう可能性もありますので、発言する際や、文章を入力する際は注意しましょう。
例文(上司あて)
上司にあてて「わかっているか」と確認する場合、素直に「わかりましたか」と聞くのは失礼に当たります。
「おわかりいただけましたでしょうか」等に変換し、丁寧な言葉にしたとしても、本質は「わかったか」ですので、やはり失礼に当たります。
目上の人たちに自分の意見が伝わっているかを確認する場合は、「ご理解いただきましたでしょうか」と伝えるようにしましょう。
その他、目上の人に対して自分の言いたいことが伝わっているかを確認したい場合、「問題ありませんか」や「よろしいでしょうか」等の確認方法もあります。
これは基本的に「わかっているか」を聞きたい場合、自分の説明や質問に対する答えを求めているからです。
そのため、自分の説明したことや質問に対して「問題はないか」や「大丈夫だったか」を聞くような言い方をすることも問題ありません。
例文(部下あて)
上司や目上の人から部下に「わかっているか」を確認する場合、「おわかりでしょうか」などの表現も適用できますが、かしこまりすぎな印象を与えてしまいます。
そのため、部下にあてる場合は「わかりましたか」など、丁寧語の「お」を付けない程度で対応するとよいでしょう。
しかし、中には本当はわかっていないのに、「承知しました」や「わかりました」と返事をする部下がいる可能性もあります。
余計な会話のラリーが発生してしまう可能性も出てきますので、「わかっているか」のような聞き方ではなく、「ここまでで質問はありますか」や「不明点はありますか」等の相手に寄り添うような確認方法が効率的でしょう。
「今回の説明で不明点はありますか」
「今回の企画について質問はありますか」
「今後の活動方針に対してわからない点はありますか」
一概に「わかりましたか」と聞いても、人によって質問がある場合や不明点に思うことが複数ある場合など、いろいろなケースが存在します。
逆に、その場では「わかった」と返事が来ても、その後改めて質問が来てしまったり、勘違いして間違った業務を行われる可能性もあります。
そのため、「わかりましたか」と聞くよりも、質問しやすい言い方に変更するだけで上手く会話のラリーが進む場合もありますので、覚えておきましょう。
また、高圧的な言い方もNGです。
「わかりましたか」のニュアンスが強いと部下が感じると、「この人は今、機嫌が悪いから質問できない」と思われる可能性もあります。
言葉のチョイスを「不明点」や「質問」に変えるか、後から質問にしやすいように「不明点や質問があれば後から聞きます」と伝えておくと、後ほど質問をしに来る場合もありますので、多少の配慮をした方が良いと思います。
例文(同僚あて)
同僚に自分の考えが伝わっているかを確認したい場合、「おわかりでしょうか」と聞くことは問題ありません。
特に、対等のビジネスパートナーとの会話シーンではよく使われる言葉でもあります。
他にも、取引先の人との会話のシーンやお客様との会話のシーンなどでもこの言葉をよく使います。
しかし、話をする内容によっては、目上の方に接するのと同じように「ご質問はありますか」や「ご不明点はございますか」「問題ありませんか」等の方がスムーズに会話が進む場合もあります。
また、総まとめとして、相手に対して自分の意見を全て伝え、承認してほしい場合も「おわかりでしょうか」を使用する場合もありますが、「了承いただけますか」や「ご承知いただけますか」の言葉に変換して使用するようにしましょう。
まとめ
「おわかりいただけたでしょうか」は二重敬語にあたるため、日本語として間違った表現方法です。
相手に対して自分の伝えたいことが認識されているかを確認する場合は、「おわかりでしょうか」と正しい表現方法でうかがいましょう。
しかし、「おわかりでしょうか」は「わかっているか」を元にした言葉のため、目上の人に対しては失礼な言葉になります。
目上の人へは類義語である「ご理解いただけましたか」のようにうかがうようにしましょう。
基本的に「わかりましたか」を使用するよりも、類義語である「ご理解」や「ご承知」「ご了承」を使用した方が丁寧な印象を与えるため、ビジネスのシーンにおいてはより丁寧な印象を与える言い方を使うことに慣れるようにしましょう。
さらに、相手によっては質問をしたい場合や理解できていない場合もありますため、「わかりましたか」と聞くよりも、「ご質問はありませんか」や「ご不明点ございませんか」「問題ありませんか」のように相手に寄り添う形で対応した方が、社会人としてもビジネスマンとしても好印象を与えることができます。
どうしても言葉が出ない場合は「わかりましたか」でも良いですが、できる限り気持ちよく進めることができるように、自分の言葉に一つ一つ気を付けながら仕事に精を出していきましょう。
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