本記事では、「お申し付けください」は正しい敬語か?について解説します。
「お申し付けください」は正しい敬語?
敬語には三種類があります。
敬語は尊敬語、謙譲語、丁寧語の3種類がある
歴史をたどってみると、一番初めに生まれたのは尊敬語です。
対等ではなく、上下関係がある身分制度ができたことにより、目下の人が目上に人に対して使って敬意を表し、持ち上げる必要が生じたのです。
やがて、身分制度は細分化されていきます。
そうすると、相手との身分の差が大きくなり、相手を持ち上げるだけでは足りず、自分をおとしめる必要性が出てきました。
そこで生まれたのが謙譲語です。
謙譲語が生まれたことによって、言葉の使い方はより複雑化していきます。
そして、時代は流れ、身分制度だけによらない人間関係ができ始めます。
そうすると、師匠と弟子、店主と客など、所属する社会や立場に合わせて、丁寧語が発達していきました。
これらを正しく使いこなすのは、難しく感じるかもしれません。
実際、間違って使っている人も多いのが現状です。
しかし、ビジネスシーンにおいては、社会人としてきちんと話せなければならず、最低限のマナーや常識と言えるでしょう。
そうでなければ、やる気や熱意があったとしても良い面はかすんでしまい、上司や顧客、取引先などに失礼な印象を与えてしまいます。
場合によっては、クレームを受けたり、信頼関係を失うことにも繋がりかねません。
ですので、質問したい時や電話で応対する時など、場面ごとの基本フレーズを覚えておくと、そういった場面になっても焦らず、スムーズに話すことができます。
自己流の話し方をしている人は、一度基本に立ち戻って、自分の言葉遣いが間違っていないか、確認しておくと安心です。
そもそも、自分と相手の立場の違いを考えれば、自ずとどう使うべきかが見えてくるものです。
相手への敬意を忘れずにコミュニケーションを取っていきましょう。
「お申し付けください」とは
「お申し付けください」は、ビジネスシーンで多用される言葉です。
この言葉を分解すると、「言い付ける」を謙譲語にした「申し付ける」に「ください」を付けて、丁寧にした言葉となっていることが分かります。
まず、「言う」について細かく考えてみると、目上の相手に対して使うのは、「おっしゃる」や「言われる」です。
それを丁寧な表現にすると、「おっしゃいます」や「言われます」となります。
一方で、自分や身内に対して使う「言う」の謙譲語は、「申す」や「申し上げる」です。
それを丁寧にすると、「~と申します」や「~申し上げます」となります。
このように、「申し上げる」を使うということは、自分が目上の相手にものを言うので、自分の「言う」という言動に対して謙譲語を使ってへりくだり、相手への敬意を表します。
しかし、「お申し付けください」の場合には、目上の相手が自分にものを言い付ける時に使う言葉なので、言い付けるという行動を取るのは相手です。
それなのに、相手の言動を謙譲語にしているのは、本来の使い方としては矛盾が生じ、間違っていることになります。
しかし、「お申し付けください」について、誰も間違っていることを指摘しませんし、多くの人々がビジネスシーンで使っています。
これはなぜなのでしょうか。
それは、本来は間違っているものの、世の中にすっかり定着している慣用句になっているからです。
慣用句となっている以上、目上の人に「お申し付けください」を使っても定型文として問題ありませんし、失礼に当たることもありません。
このように、本来は謙譲語であるにもかかわらず、目上の相手の言動に使われている言葉が実は多数あります。
その中でも「お申し出ください」や「ご持参ください」は、慣用句として、「お申し付けください」と同様にすっかり定着しています。
では、「お申し付けください」を英語ではどのように言えば良いのでしょうか。
英語には謙遜語はありません。
そのため、「質問してください」を丁寧な言い方にすることによって、日本語のニュアンスを表現することができます。
相手に敬意を払い、思いやりの気持ちを持って接しているということが伝わる英文は、以下のようになります。
- Please let me know anytime if you have some questions.(質問があればいつでもお申し付けください。)
- Pease don’t hesitate to tell us what you need.(必要なら遠慮せずお申し付けください。)
- Please feel free to ask me anything.(どんなことでもご自由にお申し付けください。)
例文
「お申し付けください」は、どのような場面で、誰に対して、どのように使われるのでしょうか。
例文で確認していきましょう。
例文(上司あて)
上司は目上の人にあたりますので、「お申し付けください」を使うべき相手です。
顧客や取引先など社外の人も同様です。
ただし、ここで想定している上司とは、普段からやり取りの多い直属の上司ではなく、所属長や役員、社長などといった、改まった態度で接しなければいけない上司のイメージとなります。
実際の例文は以下のとおりです。
- 先日の案件につきまして、ご不明点がございましたら担当の私までお申し付けください。
- お気付きの点や質問等ございましたら、お申し付けください。
「お申し付けください」の他にも、目上の相手に使える表現に「お申し出ください」があります。
これは、丁寧な表現の接頭語の「お」に、名詞の「申し出」、語尾に「ください」を付けて丁寧にした言葉です。
「申し出」は「申す」という言葉を含んでいるため、一見すると謙譲語に見えますが、ただ単に「自分から言うこと」という意味になります。
以下の例文のように、「お申し付けください」と同様に使うことができます。
- 先日の案件につきまして、ご不明点がございましたら担当の私までお申し出ください。
- お気付きの点や質問等ございましたら、お申し出ください。
目上の人に対して、「お申し付けください」や「お申し出ください」を使うことは間違いではありません。
しかし、どことなく腑に落ちなかったり、話していて抵抗があるという時には、同義語である「仰せ付けください」を使うとすっきりするかもしれません。
「仰せ付けください」は、「言い付ける」を尊敬語にした「仰せ付ける」に「ください」を付けて丁寧にした言葉です。
敬意を込めた正しい表現で、目上の相手に使うことができます。
「お申し付けください」を言い換えて、以下のように使うことができます。
- 先日の案件につきまして、ご不明点がございましたら担当の私まで仰せ付けください。
- お気付きの点や質問等ございましたら、何なりと仰せ付けください。
「お申し付けください」「お申し出ください」「仰せ付けください」のいずれを使うにせよ、上司に対してこのような言葉遣いをすれば、柔軟な受け止め方をする余裕があることを示し、誰に対しても気配りができることのアピールになります。
上司にプレゼンテーションをする機会がある時に締めくくりの場面で用いれば、上司にとっては質問や次の指示を言い出しやすくなります。
また、上司と話していて何か言いたそうにしているのではないかと感じた時に用いれば、へりくだっているように見せて、実際は会話の主導権を握り、上司の考えを引き出すことができます。
直属の上司の場合は、「お申し付けください」を普段から頻繁に使うと、丁寧過ぎて堅苦しくなるかもしれません。
そうすると、他のコミュニケーションも合わせて過度に丁寧な表現にしなければならず、時間も掛かり、ぎこちないやり取りになってしまう可能性もあります。
顔を合わせてやり取りをする機会の多い上司の場合は、「何かあればご連絡いただけませんか?」や「ご連絡お願いいたします」程度の表現で差し支えありません。
例文(部下あて)
部下は目下の人にあたりますので、「お申し付けください」を使う相手として適しているとは言えません。
そこで、「お申し付けください」の代わりとなる、丁寧な表現を使った例文を挙げます。以下のように言ってみてはいかがでしょうか。
- この書類は明日までの提出期限となっています。事情があって提出できない方はお知らせください。
- 歓迎会の欠席される場合は、この後、私にお知らせください。
部下に対しては、指導や管理をする立場なので、高圧的な言い方でなければフランクな言い方で構いません。
「お知らせください」をさらに気軽な言い方にした、「言ってください」や「連絡ください」でもスムーズなコミュニケーションができるでしょう。
部下は上司と対面している時は、少なからず緊張しています。
部下との信頼関係を築くためにも、どんなに忙しくても顔を向き合って話し、笑顔を忘れず、威圧感を与えないようにしましょう。
ある程度人間関係ができたら、様子を見ながら、対面の場合は「調子はどう?」や「あの件はどうなった?」というような雰囲気でも構いません。
会社で働くということは給与が発生するので、自分に与えられた役割をこなしていく責任があります。
上司としては、部下の仕事の進捗状況を確認したり、成果を上げさせることが必要不可欠です。
だからと言って、数字の話ばかりしていては、個別の悩みや行き詰まっている様子を掴めないことがあります。
コミュニケーションを取ることは、結果的に作業効率を高めることが実証されています。
部下に対しては、上司の方から積極的にコミュニケーションを取りに行きましょう。
例文(同僚あて)
同僚は目上でも目下でもなく、自分と同じ立場にいる人ですが、年齢や入社年月は様々です。
同じ職場にいる以上、同じ目標に向かって仕事をする仲間なので、チームワークを高めるためにも敬意を表して接しましょう。
ただし、同僚同士で「お申し付けください」を使うのはふさわしくありませんし、堅苦しく感じます。
そこで、以下のように別の表現を使った例文を挙げます。
- ご不明点等ございましたら、連絡をお待ちしています。
- 今日の午後でしたらお手伝いできますので、いつでもお声がけください。
とても丁寧でありながら、堅苦しくないニュアンスは同僚とのコミュニケーションを円滑にしてくれます。
同僚とは丁寧語で話すべきか、タメ口で話すべきか、迷うこともあるかもしれません。
しかし、職場は仕事をするために来ている場所です。
たとえ同期や後輩であっても、苗字で「~さん」と呼ぶのは当然ですし、話し方についてもできるだけ敬意を払って丁寧に話すのが妥当です。
そのメリットとして、誰とでも一定の距離を保てることが挙げられます。
職場で派閥ができてしまうと、人間関係で悩む余計な時間が生まれます。
現在、働き方改革の推進によって、残業を長々と行っている実態が見直されています。
残業時間が制限され、時間内に仕事を終わらせることが求められるように、時代は変わりつつあるのです。
誰と話す時も一様に丁寧に対応すれば、余計なおしゃべりに付き合わされたり、プライベートの詮索もされにくく、自分のペースを守って仕事に取り組むことができます。
また、人によって態度を変えなくて済むので、誰に対しても平等な対応をすることができます。
年齢は自分の方が上だけれど、相手の方が入社したのが早く、先輩に当たる人への対応を考えたりする手間も省くことができます。
後ろから呼びかけた時に相手をうっかり間違えてタメ口を使ってしまい、気まずい思いをするということもありません。
素っ気ないのではと思われるかもしれませんが、丁寧に話していても、テンションを上げて抑揚を付けたり、表情を付けたり、身振り手振りを交えて話せば、他人行儀で堅苦しいということはありません。
同僚とコミュニケーションを取りつつ、チームワークを高め、仕事に取り組みましょう。
まとめ
「お申し付けください」は相手の言動を謙譲語にする間違った使い方ですが、慣用句として定着しており、ビジネスシーンで使っても問題ありません。
役員などの上司や顧客、取引先など、目上の人に対して使うのが良いでしょう。
部下や同僚に「お申し付けください」を対して使うのは、ふさわしい表現ではありません。
堅苦しい言葉遣いをするのではなく、「お知らせください」や「お声がけください」を始めとした丁寧な表現の方が、円滑にコミュニケーションが取れるでしょう。
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