本記事では、「お座りください」は正しい敬語か?について解説します。
ビジネスシーンにおいて会談をする場合、立ったまま会話をする事は基本的にありません。
そのため、呼び出した側から相手に対して着席をお願いするシーンがありますが、正しい日本語を使用できているでしょうか。
相手に対して座る事をお願いする場合、「着席してください」「お座りください」「お掛けください」などいろいろな言い回しがありますが、それぞれどのような意味を持っているかを知っておくと、シーンによって正しい日本語の使い方を選択できるようになります。
実は、相手に対して失礼にあたる言い回しも存在しますので、間違えないように気を付けましょう。
「お座りください」は正しい敬語?
椅子に座ってほしい場合に掛ける言葉として、この「お座りください」でも意味は通じます。
しかし、ビジネスシーンにおいて、「お座りください」は失礼な言葉遣いの一つに挙げられます。
「お座りください」の「お座り」は、「座る」に尊敬語の「お~ください」を付けた敬語表現です。
そのため、敬語としては正しく成り立っていますが、残念ながら「座る」という言葉がビジネスシーンにおいて適切ではない表現となります。
「お座り」という言葉は歴史的にも古い言葉であり、一見、丁寧な言葉に見えますが、日常でよく使うシーンを思い返すと、赤ちゃんに対して「お座りしましょうね」だったり、ペットの犬に対して「お座り」と躾をしているシーンが連想されます。
つまり、「お座り」とは「目下に対して使う言葉」や「躾」の言葉として定着しているので、ビジネスのシーンではあまり使用をお勧めできない言葉となりました。
これはあくまで印象が悪いのであって、「お座りください」という言葉自体が間違っているとかではありません。
ビジネスシーン以外では問題なく使え、友人や家族に対して「座ってて」など、くだけた感覚で言う場合もあります。
「お座り=ペットの躾」のような方程式が今の人たちに植え付けられ、連想しやすい言葉になったため、目上の人に対する場合や畏まった席などでは、「お座りください」の使用をできる限り控えるようにしてください。
相手に対して席に座ってほしい場合、別の言い方で着席をお願いする必要があります。
「座る」を辞書で調べると、「膝を曲げて落ち着く/腰掛ける」「位置や場所を占める」「落ち着いて動じない」「制止する」等の意味を持ちます。
そのため、直接「座ってください」とお願いするのではなく、「座る」と同じようなニュアンスの言葉に変換してお願いすると良いでしょう。
例文
相手に対して正しい「着席を促す言葉」を覚えておく必要があります。
なお、環境や場所の状況によって使い分ける必要もありますので、しっかりと覚えましょう。
【面接編】
「大変お待たせしました。それでは面接を始めますので、どうぞそちらにお掛けください」
面接シーンにおいて面接に来た人は最初、椅子の前に立ち、面接官から座る事を催促するまでは椅子に座る事はありません。
そのため、面接官側から「座ってください」とお願いする立場となります。
【受付編】
「ただ今、担当者をお呼びいたしますので、そちらに掛けてお待ちください」
「番号札を持って呼ばれるまで、空いている席にお掛けください」
来客した人に対して「席に座って待ってほしい」場合に使用する言葉ですが、【面接編】も【受付編】も「お掛けになって」と案内しています。
この「お掛けになって」は「椅子に腰をお掛けください」の「椅子」と「腰」を省略した言葉ですが、十分に相手に伝わる言葉です。
なお、相手が「お掛けになる」場合は、「待たせている」事にも繋がります。
座って待ってもらっている状態のため、合流した場合は「お待たせしました」「お待たせして申し訳ございません」などの相手に対するお礼の言葉を伝えましょう。
ビジネスシーンにおいて基本的に相手に座ってほしいことを伝える場合は、この「お掛けください」「お掛けになってお待ちください」を多用します。
「お掛けになる」には「電話を掛ける」や「服を掛ける」などいろいろなシーンで使用しますが、もともと、「モノを動かして他のモノの面や点に固定する(とめる)」という意味が込められています。
今回の場合は「椅子に体を固定する=座る」に当てはまり、「座る」事を別の表現で「腰掛ける」とも言います。
そして、先ほども説明したように、「椅子に腰をお掛けください」という言葉が「(椅子に腰を)お掛けください」に変換された文章になるのです。
もちろん、「椅子」だけでなく地面や芝生、ベンチからシートまで、日常的に座れる場所であればすべてに当てはまるため、「座る=お掛けになる」と連想しても問題ありません。
【結婚式編】
「それではただ今より挨拶を行いますので、皆様、着席をお願いします」
【飛行機編】
「まもなく離陸いたしますので、座席に着席してお待ちください」
【結婚式編】でも【飛行機編】でも、どちらとも「着席」の言葉を使っています。
「お掛けください」と「着席をお願いします」はどちらとも椅子に座るようにお願いしている言葉ですが、「お掛けください」の場合、どこでも大丈夫で空いている席や場所に座ってほしいと願う事に対し、「着席」は決められた場所に座ってほしい場合に使用します。
「着席」という言葉からは学校などで「起立・礼・着席」の号令が思い出されますが、「着席」とは「今まで自分が座っていた席」や「指定された席」に座る事を指しています。
飛行機や新幹線の椅子に座る際に、アナウンスで「ご着席をお願いします」と聞いた事があるかと思いますが、基本的に指定された席に座る事がほとんどのため、「着席」をお願いするという表現となります。
結婚式も同じように席が決められている事がほとんどのため、「着席」で問題ありません。
講演会や集会などの際でしたら、最初は席が決められておらず、先に来た人から順番に座っていく場合もあります。
しかし、一度座ると、基本的に自分が最初に座った席から変わる事はありませんので、司会者が言うのは「ご起立お願いします」から「ご着席ください」までの流れで問題ありません。
- 不特定の場所に座ってもらう場合は「お掛けください」
- 指定された場所や一度に座った席に座るようにお願いする場合は「着席ください」
このように覚えましょう。
なお、ビジネスシーンにおいては席が決められている状況は少ないと思われます。
そのため、基本的には「お掛けになってください」の言葉で相手に席を座るように促しましょう。
英語で会話をする際にも、相手に席に座ってほしいと伝える必要があります。
しかし、英語の表現ではただ「座って」とお願いする場合でも沢山の言葉表現があり、状況によっては日本語と同じように失礼に値する場合があります。
「Please sit down(座ってください)」
この表現方法は直接的な言い方のため、ビジネスシーンのような畏まった場所では使わない言葉でもあります。
もしもビジネス中に「sit down」を使用してしまうと、相手に対して失礼な言い方をした事になります。
どの状況で使用するかと言いますと、友人たちや家族とのプライベート時に使用する言葉になります。
「Please sit down there. I’ll bring you something to food.(ここに座ってて。何か食べ物を持ってくる。)」
上記のように、普段の会話の際に使用する言葉です。
他にも、先生から生徒に対して、親が子供に対してなどの「躾」でも「sit down」は使われる事が多いため、ビジネスシーンの際は使用しないよう、注意しましょう。
「Please have a seat.」
こちらを日本語に直訳すると、「このシートを使ってください」となり、遠回しとなりますが、「シートに座ってください」となります。
日本語でも敬語を使用する場合、遠回しの表現をしますが、英語でも同じです。
この「Please have a seat.」には「お座りください」よりも「お掛けになってください」のニュアンスの方が強く出ているため、丁寧語のような表現方法となります。
そのため、ビジネスシーンにおいては基本的に「Please have a seat.」を使用すると良いでしょう。なお、相手が複数人の場合でも「Please have a seat.」で通じます。
複数形の英語を変換する必要はありません。
「Please take a seat.」
こちらも「お座りください」の丁寧語バージョンですが、先程紹介した「Please have a seat.」よりは少しだけラフな使い方となります。
主に接客業で、「ここにお掛けしてお待ちください。すぐに席を用意します」のような場面で使用されます。
「Please be seated.(ご着席ください)」
フォーマルの席や講演会、集会などビジネスシーンの際に使用できる英語表現です。
先に説明した「Please have a seat.」よりもさらに丁寧な言葉ではありますが、日本語で言う「着席」を表します。
そのため、飛行機の中のアナウンスなどに使われる言葉であり、ビジネスにおいてもむやみに「Please be seated.」を使用する事は考えてください。
例文(上司あて)
上司にあてて席に座るようにお願いするシーンはあまりないと思いますが、プレゼンなどで会議室が決まっており、座る場所が定位置となっている場合は、「お掛けください」よりも「ご着席ください」の方が良いと思われます。
上司から呼ばれる事はありますが、部下から上司を呼ぶ事はあまりありません。
基本的に部下側から向かうことがほとんどのため、上司に対して「座ってください」という機会はほとんどないと言えるでしょう。
例文(部下あて)
部下をミーティングや会議、面談に呼んだ際に席に座らせる機会があります。
部下へは謙遜語や尊敬語を使用しなくても問題ないため、「お座りください」でも問題はありません。
しかし、「お座りください」という言い方は、人によっては見下されていると感じる人もいます。
そのため、部下に向けても「お掛けください」や「そちらの席に着席ください」と伝えた方が、部下として気を使われていると思うでしょう。
風通しの良い会社を目指すのであれば、言葉使いには気を付けましょう。
また、「お座りください」は「躾」の時に使用される事が多いと説明しましたが、怒る際や注意をする際に使用してしまっている上司も存在します。
失礼ではありませんし、これから怒ったり注意する事を考えると問題なく使用してもよい言葉ではありますが、あまり良い印象を持たれない可能性もありますので、気になるならば使用しないように注意しましょう。
例文(同僚あて)
同僚に対して「席に座ってください」をお願いするシーンもありますが、こちらも「お掛けください」や「着席ください」で問題ありません。
同じ立場でもあるため、そこまで畏まる必要もない席の場合は「お座りください」を使用しても大丈夫です。
同僚に対しても畏まる席と言えば、上司も一緒に参加する会議やプレゼン等が当てはまりますが、それ以外の飲み会の席やイベントの席などについては「座ってください」等のくだけた言い方でも失礼には当たりません。
なお、飲み会やイベントの席で目上の人がいる場合は、それぞれ使い分けが必要になりますので注意しましょう。
まとめ
「お座りください」の「お座りは」は躾や目下の人に対しての言葉として認識される可能性が高く、基本的に使用しない方が良いです。
そのため、相手に座ってほしいことを伝える場合は「お掛けください」や「ご着席ください」とお願いしましょう。
また、「お掛けください」の場合は、同時に「お待ちください」の意味も込められている場合がほとんどのため、相手に対しての配慮も必要となります。
「大変お待たせしました」のように、申し訳ないという気持ちを相手に伝えるようにすると好印象を与えますので、是非覚えていてください。
細かいことではありますが、その気配りや言い方によって相手に与える印象が大きく変わります。
なんでも「お掛けになって」と案内するのではなく、場合によっては「ご着席」をお願いするようにしましょう。
難しいと思いますが、会話で適切な言葉遣いができるように頑張ってください。
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