本記事では、「お供させていただきます」は正しい敬語か?について解説します。
「お供させていただきます」は正しい敬語?
ビジネスシーンで使う丁寧語や敬語には、たくさんの種類があります。
その中には、相手への敬意を表現したり、相手を立てるニュアンスを持つフレーズの他、自分がへりくだることで相手を立てる役割をする謙遜語などもあります。
「お供させていただきます」というフレーズは、ビジネスシーンでは使い勝手が良く、幅広いシチュエーションで使えるフレーズですが、どんな相手に対して使っても失礼に当たることはないのでしょうか?
「お供させていただきます」に含まれている「お供」は、「供(とも)」という単語に「お」をつけることで丁寧な雰囲気を出している丁寧語です。
「供」にはいくつかの意味があり、その一つに「その人の後ろについて従っていくこと」があります。
つまり、「供をする」という言葉は、目下の者が目上の者に従って、後ろからついていくというニュアンスを持っています。
「お」をつけて「お供」にすると丁寧さはアップしますが、言葉が持つニュアンスは変わりません。
そのため、この言葉は、自分よりも目上の人に対して使うことができる謙譲語と考えられます。
「お供させていただきます」の「させていただきます」は、自分をへりくだることで相手に対する敬意を表す謙譲語の一つです。
日常生活の中でも使うシーンが多く、テレビ番組などでもタレントが良く使う言葉なので、耳にする機会は比較的多いフレーズではないでしょうか。
自分が何かをする時に「させていただく」という表現をすることで、丁寧な感じが出ますし、へりくだることで感謝の気持ちを込めることができる言葉です。
しかし、この「させていただきます」は、使い方が簡単そうで意外と難しいことはご存知ですか?
その時の会話の流れによって、正しい使い方をするための条件があります。
1つ目は相手の許可が必要となる場合、そして2つ目はそれをすることによって自分が恩恵を受けられると感じている場合です。
この2つの条件を満たす時には、「させていただきます」を使っても間違いではありません。
顧客「明日、展示会にご一緒しませんか?」
自分「はい、ぜひお供させていただきます」
この場面では、相手の許可があって初めて一緒に行くことができるわけです。
また、一緒に行くことによって自分が何かしらの恩恵を受けられると感じているという点で、「お供させていただきます」を正しく使っていると言えます。
それでは、どんな時に使うのはNGなのでしょうか?
上司「明日の会議には、君も一緒に来なさい。」
自分「はい、お供させていただきます。」
これは、間違った使い方となります。
上司からは「一緒に来なさい」と業務命令をされているわけですから、上司の許可が必要というわけではありません。
そのため、このシーンにおいては「お供させていただきます」ではなく、「はい、ぜひ喜んでご一緒いたします」「はい、喜んでお供いたします」とするのが良いでしょう。
歴史の中では、家臣が主君のお供をする際に
「ぜひお供させてください」
「地獄の果てまでお供させていただきます」
のような使われ方をしてきました。
家臣と主君という上下関係が明確化されていた日本の歴史の中では、このニュアンスを持つフレーズは、さまざまなシーンで使われてきたのではないでしょうか。
それでは、「お供させていただきます」を英語で表現すると、どんなフレーズになるのでしょうか。
英語では、日本語のような尊敬語や謙遜語といった概念は存在しません。
そのため、目上の人に対して使うと失礼となるワードなどはありません。
しかし、英語ではそれぞれのワードごとにフォーマル度が異なるため、目上の人に対して使う際には、フォーマルな雰囲気を持つ言葉を選ぶと良いでしょう。
上司「I will meet some investors tomorrow. Why don’t you come with me?I can introduce you to them.(明日、投資家たちと会合をするのだけれど、君も一緒に来ないかい?彼らに紹介しておきたいしね。)」
自分「I’d be happy to. Thank you for the opportunity.(ぜひお供させていただきます。素晴らしい機会に感謝いたします。)」
このように、「I’d be happy to.」を使えば、とても丁寧です。
その他にも、「I’d love to.」「Absolutely!」「Certainly!」などがあります。
英語で「お供させていただきます」を表現する際には、まず、行くという意思表示をはっきりした上で、その機会を与えてくれたことに対して感謝の気持ちを述べるという方法が良いでしょう。
意思表示をせずに、「Thank you for the opportunity.」だけでは、一緒に行くのか行かないのか、相手にははっきり伝わりません。
場合によっては、誘ってくれたことに感謝しながらも断っているのかな?と間違った受け止め方をされてしまう可能性もあります。
例文
「お供させていただきます」は、正しい使い方をすればビジネスシーンでも使い勝手がよく、さまざまなシーンで活躍してくれる便利なフレーズです
。基本的には目上の人に対して使う言葉なので、上司や取引先、顧客に対して使っても、失礼に当たることはありません。
相手を激怒させてしまうこともないでしょう。その点では、失敗しにくいフレーズと言えます。
しかし、間違った使い方をしてしまうと、言われた側に違和感を与えてしまいます。
それに、とても不自然です。
社内で部下や同僚に対して使う際には、「お供させていただきます」ではなく、「ご一緒します」「ぜひ一緒に!」「もちろんです」など、似たような意味を持つフレーズの中でも、より親近感を感じられるものを選びたいものです。
例文(上司あて)
上司に対して「お供させていただきます」を使うことは、間違いではありません。
もともと「お供」には目上の人に従ってついていくという意味があるので、この言葉をチョイスしても不自然ではありませんし、相手に違和感を与えることもないでしょう。
社内では、自分よりも目上の立場となる上司に対して使えますし、取引先や顧客など、社外の人から一緒に行かないかと誘われた時にも、「お供させていただきます」を使うことができます。
上司「君、明日本社に行く用事があったよね?ちょうど僕も行くから、一緒に行かないか?道中でプロジェクトの件についても話しておきたいんだ。」
自分「はい、喜んでお供させていただきます。プロジェクトの件につきまして、明日までに準備しておく資料などはありますか?」
ただし、注意したい点があります。
それは、上司から「一緒に行かないかい?」と聞かれた時には、「お供させていただきます」と「させていただきます」を使いますが、上司から「一緒に来なさい。」と業務命令された場合にはNGという点です。
業務命令された時に、「お供」という言葉を使うのは間違いではありませんが、文末は「お供させていただきます」ではなく、「お供いたします。」にしなければいけません。
「させていただく」ではなく、「いたします」を使うのが正解です。
「お供させていただきます」は、相手と対面もしくは電話口など、口語体で使うフレーズです。
メールや手紙の中で「相手と一緒に行きます」という意思を伝えたい時には、「ご一緒」という言葉を使うと良いでしょう。
「ご一緒させていただきます」「ご一緒いたします」とすれば、「相手と一緒に行きます」という意思表示ができるだけでなく、文章として自然なワードを選んでいるという点で、好感を与えられます。
英語での表現では、「I’d love to.」「It’s my honor to.」「Certainly!」「Absolutely!」などを使えば、上司に対して失礼にはなりません。
このうち、メールや手紙などの文章で使うのなら、「I’d love to.」とか「It’s my honor to.」など、文法面でしっかりしたフレーズを選ぶのが良いでしょう。
例文(部下あて)
「お供させていただきます」は、自分よりも目上の人に対して使うフレーズです。
そのため、部下に対して使うと不自然ですし、言われた部下にとっては、違和感を感じてしまうでしょう。
部下から一緒に行ってもらえないかと依頼され、一緒に行きましょうという意思を伝えるのなら、「ご一緒します」「同行します」などの言い方がおすすめです。
ちなみに、同行するという言葉は、対等な立場の人や目下の人に対して使う言葉です。
上司「来週のセミナー、君も一緒にどうだい?」
自分「はい、ぜひ喜んで同行させていただきます。」
というのは、敬意という点で十分ではありません。
そのため、上司に対して使うのはNGです。
テレビドラマなどでよく耳にする「同行」の使い方には、警察官が事件の容疑者に対して言う「署までご同行願います。」があります。
これは、警察官が自分の意思表示をしているというわけではなく、容疑者に対して「一緒に来て下さい」というニュアンスを丁寧に伝えているフレーズです。
「願います」という言葉には相手を立てる意味があり、尊敬語として使います。
つまり、容疑者に最低限の敬意を払いながら、一緒に来てくださいと依頼しているのです。
部下に対して英語で「一緒に行きます」という意思表示をするなら、「Certainly!」「Absolutely!」「Sure!」「Of course!」など、カジュアルな表現でも、失礼にはあたらないでしょう。
部下に対して丁寧な「I’d be happy to.」を使っても問題ありませんが、この場合には、言われた部下は、上司との心の距離を感じてしまうかもしれません。
フォーマル度が高い言葉を自分よりも目下の人に対して使うと、部下にとっては突き放されているような気持ちになるかもしれないという点は、理解しておいた方が良いでしょう。
そのため、言葉選びという点では注意が必要です。
例文(同僚あて)
同僚に対して「お供させていただきます」というのは、使い方という点では間違いです。
このフレーズは、自分よりも目上の人に対して使う言葉なので、自分と上下関係にない同僚に対しては、「ご一緒します」「ぜひ一緒に」「もちろん!」「OK!」などの表現の方が、自然かもしれません。
同僚「忘年会の場所を下見に行くのだけれど、一緒に行かない?」
自分「オッケー!」
この場合には、同僚がフランクな口調で話しかけてきたので、こちらからもフランクな返しで問題はありません。
同僚「明日の会議の資料、これから山田部長へ届けに行くのだけれど、一緒に行きませんか?部長に紹介しておきたいので。」
自分「ぜひご一緒します。」
このように、相手が同僚でも丁寧な言葉づかいで誘ってきた時には、同じく丁寧に返すのが、ビジネスマナーです。
同僚との会話では、普段の同僚との関係や会話、またTPOに合わせて、「です」「ます」を使って丁寧に話したほうが良いのか、それともタメ口が良いのかを判断すると良いでしょう。
同僚と1対1での会話なら、タメ口でも問題ない場合が多いものです。
同僚は社内においては同志とも呼べる存在ですし、普段から敬語を使わずにタメ口で会話をしている相手なら、「一緒に行きます」という意思表示をする時だけ急に丁寧な口調になるのも不自然です。
しかし、他の人が大勢いる会議などにおいては、話をする相手が同僚だったとしても、TPOに合わせて「ぜひご一緒します」など丁寧な言い方をするのが賢明です。
上司や部下などが大勢いる場所で、相手が同僚だからと言って「オッケー!」と軽いノリの発言をしてしまうと、会議に出席している人の中には不快に感じる人がいるかもしれません。
そうしたトラブルを未然に防ぐという意味でも、時と場所を選んで、相手が同僚でも正しく丁寧な言葉遣いをしなければいけないことはあるでしょう。
まとめ
「お供させていただきます」は、自分よりも目上の人に対して使う言葉です。
そのため、上司に対して使ったり、取引先や顧客などに対して使う分には問題ありません。
しかし、自分の同僚や部下に対して使うと不自然です。
その際には、丁寧に「ご一緒します」を言ったり、「同行します」などのフレーズを使うのがおすすめです。
コメント