「お伺いさせていただきます」は正しい敬語?
日本語は他の言語と異なり、相手を敬う際に使用する独特な言葉があります。
それらは大きく分けて3種類あります。
1つ目は丁寧語で、文末によく見られる、です・ますでしめる形がそれにあたります。
こちらは残り2つの表現よりも日常的に耳にするため、何も考えずに自然に使いこなすことができます。
2つ目は尊敬語です。
この表現は簡単に説明すると相手を持ち上げる表現の言葉となります。
そして3つ目は謙譲語です。
謙譲語は2つ目とは反対に、自分を下げて相手を上げる表現です。
これら3つの表現のうち、2つ目と3つ目は使用方法が難しく、完璧に使いこなせている人は少ない傾向にあります。
そのため、これらの表現を完璧に使いこなせる人は、教養があるとみなされ、さまざまなビジネスシーンで有益な効果を得ることができます。
今回は1人でも多くの方に、正しい日本語の表現を学んでいただきたいと思い、使用頻度が多く、間違った使い方をしている人の多い、「お伺いさせていただきます」という言葉に焦点をあててみました。
お伺いさせていただきますという言葉は、ビジネスパーソンならば1度は使用したことのある言葉だと思います。
しかし、この何気なく使っているこの表現は、実は間違った日本語として扱われているのです。
まず、「お伺いさせていただきます」という言葉で使用されている、「伺う」という言葉は、前述の3つの表現の中の謙譲語にあたります。
謙譲語とは前述の通り、自分がへりくだり、相手を立たせたい時に使用する表現で、わかりやすく表現すると謙遜語と同じです。
また、謙譲語を使用する時は、文章の主語は必ず自分自身である必要があります。
また、「お伺いさせていただきます」という言葉は、その文章自体が1つの丁寧な表現として認識されていますが、きちんと分解すると、さまざまな丁寧な表現が複合されてできていることがわかります。
その内訳は、謙譲語のお、謙譲語の伺う、謙譲語のいただく、丁寧語のますとなっており、実に多くの丁寧な表現を盛り込んで作られた言葉であることが理解できると思います。
このように過剰に丁寧な表現を盛り込んだ言葉を二重敬語といい、もともと相手を敬う丁寧な表現になっている言葉に、同じように丁寧な表現をたくさん重ねてしまうことを指します。
簡単に言うと、丁寧な表現は1つの言葉につき、1つだけで良いということです。
言葉で説明すると単純に思えますが、世の中にはとても多くの過剰に丁寧な表現が存在しており、ほとんどの方が、間違っているということに気づかずに使用しています。
今回の「お伺いさせていただきます」という言葉も、過剰に丁寧な表現が盛り込まれていることから二重敬語となり、日本語の使用方法としては間違った表現であると言えます。
また、~させていただくという表現は一見、つけるだけで言葉が丁寧に表現されるように感じますが、基本的には相手に許可を求めたい時に使用するべき言葉です。
そのため、許可を求めておらず、行くことが決定していることを報告するために、させていただくを使用するのは間違った表現となります。
何故、こんなにも丁寧な表現が重なった言葉が生まれるのかというと、それは古の時代に起源があります。
昔、古語において、二重敬語はかなりの高頻度で使用されています。
現代人が丁寧な言葉を重ねたがるのは、そのような歴史的背景があるかではないかと考えられています。
前述の通り、「伺う」という言葉は、相手に行く、質問する、聞く、尋ねる、訪問するという意味を丁寧な表現で伝えたい時に使用する謙譲語です。
そのため、正しく表現すると「伺います」となります。
しかし、間違った表現である「お伺いさせていただきます「」という言葉は、前述の通り、多くの人が間違ったまま普通に使用しています。
そのため、このように、ビジネスシーンで習慣的に使用されている間違った表現は世に定着しているとして文科省が認めています。
つまり、日本語の文法的には間違っているけれど、ビジネスシーンで使用する場合は間違っていないという、ややこしい状態が起こってしまっているのです。
いくら習慣として定着していると言っても、使用することが容認されているだけであって、決して正しい表現ではありません。
そのため、正しい日本語を知っている人からすると、違和感があります。
他の人と差をつけるという意味でも、正しい日本語の使用法を心がけましょう。
また、言葉の表現法とは別に、「伺う」という言葉を使う際は、あくまで目上の人に使用する表現であることを念頭においておく必要があります。
そのため、身内や部下など、目下の人に対して「伺う」を使用するのは間違った表現となります。
例えば、上司に対して、部下から報告を受けたことを伝える際に、「これらの件について、部下の○○に結果をお伺いしました」と言うのは、「伺う」という丁寧な表現が自分よりも目下の部下にかかってしまい、部下を敬っていることになってしまうため、日本語として不適切になります。
もちろん、この部下の部分が、取引先や別の上司など出会った場合は問題なく、そのままの表現を使用することができます。
今回の場合は、あくまでも敬うのは目上の上司だけということになるため、この場合は「これら件について、部下の〇〇に確認して参りました」と表現するのが正解となります。
何故、このような使用法になるのかというと、謙譲語には、動作の先に存在する人を立てた表現のものと、
自分と同等の身内や、それ以下の後輩や部下などの話をする際に使用する丁寧な表現の2つの種類が存在します。
そのため、この2つの使用方法がごちゃまぜになってしまうと、不可解な日本語になってしまうため、注意するようにしましょう。
例文
例文(上司あて)
上司や取引先、そして目上の方に対して、自分の行動を表現する時は謙譲語を使用します。
そのため、正しい表現は「伺います」もしくは、さらに丁寧な言い方をした「伺いたく存じます」を使用します。
行く・訪問するという意味の「伺います」
それでは、今週の金曜日に御社に伺います。(伺いたく存じます)
Well then, I will visit your company this Friday.
- 御社へは14時に伺いますので、よろしくお願い致します。
I will visit your company at 14:00, so thank you. - 当日は担当の者と私の2名で御社に伺います。
The person in charge and I will visit your company on the day. - 今取り掛かっている仕事が終わり次第、すぐに伺います。
I will visit you as soon as the work I am working on is finished. - お誘いいただきありがとうございます。ぜひ伺います。
Thank you for inviting me. I will definitely visit you. - よろしければこちらから伺いますので、ご都合の良い日時の候補をいくつかお知らせください。
If you don’t mind, I will ask you from here, so please let me know some candidates for a date and time that is convenient for you. - 急いでそちらに伺いますので、今しばらくお待ち下さい。
I will come to you in a hurry, so please wait for a while.
普段、~させていただくという表現に慣れてしまっていると、シンプルすぎて失礼になっていないか心配になる方もいるかと思います。
しかし、正しい日本語の表現としてはこれが正解なので、しっかりと覚えておくようにしましょう。
聞く・質問するという意味の「伺います」
- 明日の会議について、数点伺いたいことがございます。
I would like to ask you some questions about tomorrow’s meeting. - 恐れ入りますが、私ではわかりかねる点がありますので、担当の者が伺います。
Excuse me, but there are somethings I don’t understand, so the person in charge will ask. - 状況について伺いまして、すぐに対応を検討いたします。
We will ask you about the situation and will consider the response immediately. - 先日は大変勉強になるお話を伺いました。
The other day, I heard a story that will be very educational. - 取引先の方から、プロジェクトの進行状況について伺いました。
I asked a business partner about the progress of the project. - 同伴のお客様はすでにお帰りになったと伺いました。
I heard that the accompanying customer has already returned.
これらの例文の「伺う」の部分を、多くの方は「お伺いしたい」や「お伺いします」と表現します。
しかし、お伺いしたいは厳密に説明すると、「お」と「伺う」といった丁寧な表現が重なっており、日本語としては間違っています。
この表現は「お伺いさせていただきます」と同様に、文科省が習慣的に定着した丁寧な表現として認めている表現の1つです。
しかし、可能な限りスッキリとシンプルな丁寧表現を心がけるようにしましょう。
例文(部下あて)
部下に対する場合は、特にかしこまった言葉遣いをする必要はありません。
そのため、上司に使用するような「伺う」を使用するのは適していません。
しかし、社会人としてあまりにラフな表現は避けたほうが良いでしょう。
プライベートな時間ではない就業中は丁寧な言葉づかいを意識することが大切です。
- 明日、取引先に訪問するので、資料の確認をお願いします。
I will visit my business partner tomorrow, so please check the materials.
このように、伺うという言葉を元の行くという言葉にもどし、同じ意味の訪問するという言葉に置き換えました。
もちろん、「取引先に行くので」と言い換えても問題ありません。
例文(同僚あて)
同僚に対しても後輩に対するのと同様に、かしこまった表現を無理に使用する必要はありません。
しかし、同僚とは仲良くなりやすく、後輩以上に砕けた調子で話してしまいがちです。
しかし、きちんとしたビジネスマンは公私混同しません。就業中の言葉遣いのマナーはしっかりと守るようにしましょう。
- 明後日、代表して取引先に挨拶に行ってきます。
The day after tomorrow, I will go to say hello to my business partners on behalf of them.
挨拶に行ってきますという表現を、「挨拶に伺ってきます」としてしまうと、自分を下にして同僚を立たせることになってしまうので、同じ立場として考えるとおかしな表現になることがわかると思います。
しかし、年上の同僚など、同じ立場でも敬いたい相手には使用しても問題ありません。
まとめ
「お伺いさせていただきます」という表現は間違っている日本語表現でありながら、使用する人があまりにも多いため、使用が認められている丁寧な表現です。
丁寧な表現というものは、相手を敬っていることが相手に伝わることが大切であるため、多少の間違いは気にしないという風潮があります。
このような風潮は特に日本語が乱れた現代社会においては容易に容認されてしまいがちです。
しかし、各業界のトップを走るビジネスマンやビジネスウーマンはこのような風潮に流されず、きちんと正しい日本語を使用しています。
また、言葉を崩してしまうのは簡単ですが、正しい使い方をしようと思うとある程度学習しないと身につかないものです。
言葉遣いが美しい人から教養を感じるのは、こういった陰ながらの努力が現れているからに他なりません。
正しい日本語の表現を後世に伝えていくのは、日本に生きている者の責任でもあると思います。
これを気に、改めて日本語を勉強し直してみましょう。正しい言葉遣いをマスターしてビジネスパーソンとしての格を上げることができれば、より大きなビジネスチャンスを掴むことが出来るでしょう。
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